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執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0027 救急蘇生ガイドラインとAHAのコース

更新日:2021年5月18日

アメリカ心臓協会AHAの救急蘇生教育プログラムは世界中で展開され、日本では医療従事者の急変対応トレーニングとしてBLSプロバイダーコースやACLSプロバイダーコースなどが広く活用されていますが、AHAのコースはもともとアメリカの蘇生ガイドラインに基づき策定されているコース。日本でそれをそのまま展開するのは不都合が生じる場面も少なくありません。

 

蘇生ガイドラインの成り立ち


蘇生ガイドラインは、国際蘇生連絡委員会(ILCOR)による国際的合意事項の勧告に基づき、各国が自国の実情を踏まえ、最適なガイドラインを作成します。


ILCORでは、あくまで「勧告」を発出しているのであり、世界中で適用される蘇生の指針(ガイドライン)を定めているのではありません。蘇生ガイドラインの作成主体は各国の蘇生学術団体であり、日本では日本蘇生協議会JRCが、米国ではアメリカ心臓協会AHAがガイドラインを作成します。


例えば、窒息の解除法に関し、日本では背部叩打法と腹部突き上げ法が指導されるのに対し、米国では腹部突き上げ法と胸部突き上げ法が指導されるといった差は、食文化等を踏まえ、自国に最適と考えられるガイドラインが作成されていることによるものです。


 

ガイドラインが混在する日本の実情


とはいうものの、一次救命処置分野でいえば、成人・小児・乳児すべての年齢層に対する医療従事者レベルの高品質なBLSをトレーニングできる日本発祥の教育プログラムが無いため、AHAのBLSプロバイダーコースが広く活用されています。


市民向け救命講習はJRCガイドライン準拠、これに対し医療従事者の蘇生教育はAHAガイドライン準拠であることが多い…という状況が発生しているのが日本です。


JRCガイドラインとAHAガイドラインではBLSの手順にも細かな違いがあり、JRCガイドラインでは頭部後屈顎先挙上法で気道確保を行ったうえで呼吸と脈の確認を行うのに対し、AHAガイドラインでは気道確保せずに呼吸と脈を確認するといった違いがあります。


何年か前の看護師国家試験でBLSに関する問題が出題されましたが、JRCガイドラインをベースに作成されているこの問題、AHAガイドラインしか知らない方だと正解にたどり着けないものでした。(言葉足らずな部分もあり、結局不適切問題扱いになっていましたが…)


 

AHA自らが「ローカライズせよ」と言っている


先日、AHAガイドライン2020準拠のBLSインストラクターマニュアル(日本語版)が発売されましたが、そのP7にはこのような記述があります。


AHAでは、インストラクターが各コースを受講者のニーズにあわせて調整することを許可している。 インストラクターとして最も受講者の役に立てるのは、特定の受講者のニーズに応えるよう調整できていることである。

このような考えを踏まえ、BLSプロバイダーコースには「地域のプロトコールについてのディスカッション」という科目がオプションで設定されており、その進行に関し同インストラクターマニュアルP19では


プロバイダーの行動に関する本コースの指示と、それぞれの地域のプロトコールが一致していない可能性がある。AHAはそれぞれの地域で確立されたプロトコールとの対立を望むものではない。

とし、あくまで受講者が活動する地域で定められた手順が優先であることを示しています。


コースで教授したスキルを実効性あるものとし、現場への転移を促すためには、所定の内容をただ教授するだけでなく、受講者の活動領域を踏まえたローカライズが不可欠であり、AHA自らがその必要性を謳っている現在。


講習運営にあたるインストラクターこれをかんがみず、ただ教材に従ってコースを進めるだけでは、受講者のスキルを最大限向上させることができないばかりか、AHAの思想自体も無視してしまうことにもなりかねません。

「AHAコースはアメリカのものですから、日本のとは違う部分があります」と言い張るだけでは、AHAインストラクターの責任を果たしているとは言い難いのではないでしょうか。


 

日本版ガイドラインや法を無視すると…


AHAのBLSコースの内容と日本の実情が合わない最たる点が、AED使用における成人と小児の区分でしょう。米国では8歳以上が成人パッドや成人モード使用であるのに対し、日本では就学時以上が成人パッド等の使用対象となるものです。


G2015版のBLSプロバイダーマニュアル(講習テキスト)にはこの違いは書かれておらず、同コースを受講した医療従事者等の中には「8歳未満の人には小児用パッドを使う」と覚えている方が少なくありませんでした。


そう覚えた医療従事者が、何らかの機会に市民向けにその知識を伝達したらどうなるか。

それを聞いた人は「うちの学校のAEDは小児用パッドが入っていない!どうなってるの!」などと誤った認識をもってしまうかもしれません。

一般市民からしてみたら医療従事者が述べる医療分野の知識は正しいもの。でも、実はそれは誤り…ということは、現実に発生しています。


G2020版のBLSプロバイダーマニュアルでは、「成人及び8歳(日本では就学児)以上の…」と記載されるようになったため、この誤解も今後は順次解消されていくことでしょう。(G2020版日本語教材作成チームの皆様、ありがとうございます…)


これ以外にも、アドレナリンやナロキソンの自己注射器の使用、市民による子どものCPRの手順など、日本と米国の法体系や地域性等の違いによる差はいくつか存在しますが、「現場で動ける救命処置」をテーマに掲げるブレイブハートNAGOYAでは、もちろんこのような面も加味し、解説をプラスするなどしてAHAコースを展開しています。


今後、日本におけるAHAコースもガイドライン2020教材にシフトしていきますが、もともと米国で使用するための教材を他国で展開するにあたり、どのようなローカライズを図っているか。このような点でも講習提供者の品質が問われる時代といってよいでしょう。

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