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執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0022 傷病者評価を学ぶ意義(セミナー『生命危機を見逃さない傷病者対応』事前学習サポート記事)

心肺蘇生法に関する講習は数多く行われていますが、実際に遭遇する傷病綾の多くは非心停止。職務上対応の責任がある皆さんにとっては、そこで何もできなかった…というわけにもいかないものですが、どう対応すべきかのトレーニングの場が乏しいのが何とも困ったところです。


上級救命講習など、一部の講習では非心停止の対応(ファーストエイド)を取り上げることもありますが、「〇〇症の場合はこうする!」というような結論ありきの展開なので、いま目の前の人に何が起きているかまるでわからない現場の実情とは大きな乖離が発生します。

傷病名とその対応法を知っていたところで、いま何が起きているのか、手当が必要な箇所はどこなのか、どこから手当すべきかの判断ができなければ、手当には着手できないのです。

そのような実情を踏まえ、ブレイブハートNAGOYAでは、オリジナルセミナー『生命危機を見逃さない傷病者対応』を開催しています。

この記事では、同セミナーをより充実したものとするために必要な基礎知識をお話ししていきます。

 

さぁ、どうしますか?


あなたの勤務先の通路で倒れている人を発見しました。

周囲に危険な物体や人、その他危険な環境的要因などはなさそうなので、近づいて呼びかけてみたところ、目を開けたり体を動かしたりは認められません。

顔は青白く、頭部からの出血もみられます。 さぁ、あなたはどう行動しますか?

ここからの行動を説明してください。

反応がないから119番通報をしてAEDを持ってきてもらう?

人を呼んで手伝ってもらう?

頭から出血しているので、清潔な布で圧迫止血する?

うつ伏せなので仰向けにしたほうがよい?



いろいろな行動が浮かんだことでしょう。

ファーストエイドの難しさはここにあります。

傷病者が心停止であれば進むべき道はひとつ。質の高い心肺蘇生の実施です。

しかし非心停止の場合、判断分岐が無数に存在し、判断ひとつであらぬ方向に進んでいってしまいます。

先ほどの例題、実はモデルとした事例があります。

学校内で生徒が倒れているのを教員が発見。頭部からの出血にとらわれ、その生徒が窒息していることに気づかず、生徒が死亡してしまったという平成28年に国内で発生した事故がそれです。

リンク:大分県立南石垣支援学校における事故調査報告書(令和元年7月)
https://www.pref.oita.jp/site/gakkokyoiku/minamiishigaki-houkokusyo.html

少量の出血であれば今すぐに死んでしまうということはないものの、「出血がある場合は直接圧迫止血」という結論だけ頭に入っていると、目の前の出血にとらわれ、それよりはるかに危険な「窒息」という生命危機を見逃してしまうことになりかねません。(この事例では、他にもたくさんの教訓がありますが、それはまたいずれ。)


 

ファーストエイドに必要なスキルって何だろう?


結論(傷病名)ありきのファーストエイドトレーニングでは、実際の傷病者対応が難しい…ということはご理解頂けたかと思います。

蘇生ガイドライン2015では、ファーストエイドプロバイダーに必要なスキルを次のように定義しています。


ファーストエイドの習得目標
ファーストエイドの習得目標は、どの訓練のレベルにおいても、以下のとおりとする。

(1)ファーストエイドの必要性の認識、評価および優先順位付け
(2)適切な知識、技術、行動を用いてケアを提供する
(3)限界を認識し、必要に応じてさらなるケアを求めること

(AHA心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインアップデート2015 P278)

多くのファーストエイド講習で取り扱うのは(2)のスキル。 それ以前に必要な(1)のスキル、すなわち傷病者評価(アセスメント)のスキルを錬成する場はとても少ないのです。


医療者向けの患者・傷病者評価トレーニングとしては、アメリカ心臓協会AHAの「PEARSプロバイダーコース」などがありますが、業務として傷病者対応にあたる職種(養護教諭や集客施設の警備員、介護職など)に適切なレベルと内容のトレーニングはほぼ存在しないのが実情。

この『生命危機を見逃さない傷病者対応』講習は、一般的なファーストエイド講習以上・PEARS未満をカバーすべく企画したものです。


参考:PEARSプロバイダーコース (ブレイブハートNAGOYAウェブサイトへ)


 

何でも手を出せばよいというものでもない


心停止の場合、心臓が止まっているという最悪のケースなのですから、手当の中でそれ以上症状を悪化させることはないともいえます。

しかし、非心停止の場合、対応の適否によっては、傷病を悪化させてしまうケースも存在します。


例えば、圧迫止血ですぐに止血できる程度の出血に対し、軍用止血帯(ターニケット)を使用すれば、出血していた四肢全体に損傷を与えることもあり、手当の結果生じた害が、当初避けようとした害の程度を上回ることとなり、適正な手当の実施とはいえず、責任を問われることにもなりかねません。(心肺蘇生やファーストエイドに関する責任が問われないといわれているのは、あくまで「緊急避難」や「緊急事務管理」が成立している場合を謳っているに過ぎません)



ファーストエイドプロバイダーの目標
(1)生命を維持する
(2)苦痛を和らげる
(3)さらなる疾病や傷害の悪化を防止し、回復を促す

(AHA心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインアップデート2015 P278)

ファーストエイドを行うにあたっては、この3点を忘れてはなりません。

安静にさせて救急隊に引き渡せばこの3点を実現できるのに、頭の中にある知識から「こうすべきだ!」といって傷病者に無用に手を加え、苦痛を与えたり、傷病を悪化させたりすることは本末転倒です。


反応はないが正常な呼吸をしている傷病者へのファーストエイドとして「回復体位」がよく知られていますが、頭部後屈顎先挙上法で気道が維持できるのに、傷病者の身体に一定の負荷を与えることとなる回復体位への変換を短絡的に行う意義はあるのか??? 先ほどの天秤や、ファーストエイドプロバイダーの目標を加味して考えたいところです。


 

人を生かしたいなら、死ぬしくみを考えよう


私たちは、生命危機に陥った人を助けるため、ファーストエイドや救命処置を学びます。

そのためには、人はなぜ生きているのか、その機能の何が失われると生命が維持できないのか、それを回避するために何をすべきか…などを踏まえ、体系立てた評価や手当をしていくことが大切です。

次回は、人が生きるしくみと死ぬしくみを考え、体系だてた評価の方法に触れていきます。

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