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執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0020 救命講習は何のためにある? - リスク対策としての救命講習 -

救命講習の目的とは何でしょうか? 多くの方が「命を救うため」と答えることでしょう。

では、命を救ったその先にある「守りたいもの」とは何でしょうか?

命を救えなかったときに失うものとは何でしょうか?


(マネキンでの練習の"その先”は、どれだけ見えていますか?)


 

社会的な損失を防ぐために


突然の心停止になった人を救えなかったらどうなるか。

本人の人生が突然絶たれてしまう 家族の人生にも大きな影響

このような部分はどなたでも思いつく部分でしょう。救命の本質的部分といえるかもしれません。数値だけみれば年間何万人の心停止死者ですが、家族からみたらたった一人の配偶者や親ですから、その点でので損失はまず減らしたいところです。


本人や家族が将来行うはずだった活動が無くなり、社会的、経済的損失を生む 貴重な労働力が失われることとなり、職場の事業に影響を及ぼす(ここまでの育成にかけた時間や費用も無駄になる)

その人の職場においても、目に見えない、計ることができない損失が発生します。 社会的にみても、「救えたはずの命」が出るのは大きな損失です。 労働現場における救命講習は、このような企業の損失を防ぐ意味合いもあるわけです。


 

法的トラブル等に発展するリスク

善意で救助を行う一般市民(バイスタンダー)は救助に関し何の責任もないわけですし、注意義務(法規定や立場を踏まえ、"ここまですべき"という範囲)の程度も、業務として傷病者対応にあたるべき人に比べれば相当低いわけですから、傷病者が死亡等しても刑事、民事ともに責任は問われないとされています。


他方で、業務として傷病者対応にあたる立場(職務の特性から傷病者発生時に一定水準の対応をすべき市民や、医療従事者)は、その注意義務を果たしていない場合には、その点に係る法的責任を問われることがあります。

これは対応した個人の責任が問われるというよりは、従業員らがいざというとき適切な対応をできるように組織として必要なマニュアル策定や設備機器の設置、相応の訓練などを組織として行なっていたかが問われるものであり、遺族が学校や保育所、企業などを相手どり訴訟を起こすケースは決して少なくありません。

学校や保育、警備、介護、スポーツ指導者などがまさにこの立場にあたるわけですが、従業員に定期的なトレーニングを行うなどは相当な時間と費用と苦労を伴うもの。それを厭う企業等が少なくないのも事実でしょう。

とはいえ、訴訟となれば相当な時間と費用と苦労がかかり、賠償金や和解金の金額だけみても数千万円規模のものがほとんどです。 トレーニング等に係る出費を押さえるかわりに訴訟リスクをそのまま抱えておくか、はたまた将来の訴訟リスクを回避すべく日頃からトレーニング等に費用や時間をかけておくか。 人道や博愛精神に基づく話ではない、コーポレートガバナンスとしての救命講習の意義です。


当該事案に関係した個人も、賠償金の支払い責任を負う等はなかったとしても、事情聴取等係る多大な苦労を負いますし、なにより「あの人を助けられなかった」「なぜこうできなかったんだ」という悔いと心的負担は残ります。「ベストを尽くした」といえるかどうか。やはり日頃の備えにかかっています。


 

風評リスク等も馬鹿にできない


もし訴訟となれば、メディアで企業名や店舗名などが公開され、それにより顧客の減少という影響が生じる可能性も多分にありますし、企業の株価にも映像を及ぼす場合があります。 また、傷病者対応の現場で適正な対応をなしえなかった場合には、傷病者本人や同伴者、それをみた周りの人らが状況をSNSに投稿して多数の人がそれを閲覧するといったケースもあります。

こういう話をし出したらキリがないと思われるかもしれませんが、リスクマネジメントとは

●リスクをゼロにはできない

●自分たちの組織体制や予算などをかんがみ、「許容できるリスクの範囲」をどこまでにするか定める ●許容できないリスクを軽減するために必要な対策を行う というもの。行う対策の範囲は組織等によって異なります。

極論を言えば、訴訟に係る各種の損失が組織として許容できるのであれば、訴訟リスクを解消するための普段の行いは不要になるわけですが、当該組織がリスク対策・安全対策をどの程度行なっているのか、「許容できるリスクの範囲」にギャップがないかを、利用者側が確認し、利用する施設を選ぶという行為も必要でしょう。(小学校など、利用施設を選びようがない場合もありますが…)

この行為、「あの店は店内や食器が汚く、食中毒のリスクがあるから利用しない」など、日常で誰しもが行なっているものと幹は同じなのですが、傷病者対応を含む安全分野ではなかなか行われないもの。 利用する学校や保育所、警備会社、介護施設、スポーツクラブ、ホテルなどを選ぶ際に、利用者がこのような視点から利用場所を選ぶことも必要なのでしょう。


 

救命法指導者は視野をもっと広く持とう


教育分野では、Donald L. Kirkpatrickが提唱した「四段階評価モデル」という、教育の成果の度合いを示す指標がよく使われます。


一般的な講習会場で受講者に保証できるのはレベル2が限界。しかしレベル3や4を踏まえた講習設計と運用をしなさいよというのが、ガイドライン2015時代の救命講習の本来。

救命法指導者の皆さんは、どこまでを見据えて講習設計や運用をしていますか? 特に企業等に対する救命講習は、マネキンを使ってただCPRの手技の練習をさせるのみでは、救命講習がもつ目的を果たすことは困難。 救命分野に関するコンサルタント的な視点とスキルも必要です。

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