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執筆者の写真ブレイブハートNAGOYA

0019 看護師らが人工呼吸を省略したCPRしか行わなかったことで責任を問われたケース

COVID-19の影響でこれまで以上に「省略してもよい」といわれることが多くなってしまった人工呼吸。

救命処置に関し何の義務も負わない一般市民ならまだしも、業務の範ちゅうとして傷病者対応を行う立場の方(教職員や保育士、警備員、スポーツ指導者など)や医療従事者は、人工呼吸を含むフルサイズの心肺蘇生がやはり求められています。

成人が突然倒れる心原性心停止と異なり、呼吸停止から心停止に至る呼吸原性心停止は血中に酸素が残っていないため、いくら胸骨圧迫だけ行っても救命は難しく、人工呼吸で酸素を体内に供給することが不可欠。

これは今も昔も変わらぬことです。


 

医療従事者はバッグマスク使用が必要

我が国の救急蘇生ガイドラインにおいては、医療従事者はバッグマスクを使用した人工呼吸の実施が定められています。

これは診療科や勤務場所の区別はなく、医療従事者というカテゴリの職種全体を対象としているものであり、「救急指定病院が対象」だとか「診療所は除く」といった規定は何もありません。


市民向け救命講習で取り扱う口対口人工呼吸は、医療従事者にしてみれば傷病者の体液曝露事故にあたるケース。医療のプロとして使用すべきはやはりバッグマスクです。


AHAのBLSプロバイダーコースでは、病院内共用部等における心停止の初動対応などを想定してポケットマスクの使用も取り扱いますが、基本はバッグマスクであることに変わりはありません。

 

耳鼻科クリニックでの小児心停止事案に係る訴訟例

平成23年8月、宮城県の耳鼻科クリニックで治療を受けていた11歳女児が院内で心停止に。看護師が心肺蘇生を開始するも、人工呼吸を伴わない胸骨圧迫のみの心肺蘇生を継続したものです。

リンク:坂野法律事務所
適切な心肺蘇生を行わなかった過失を認めた事例
http://www5b.biglobe.ne.jp/~j-sakano/sosei1.html 

裁判においては、次のことが認定されています。(要約)

院長の指示により看護師が胸骨圧迫を行ったが、バッグマスクなどによる人工呼吸は行われていない。これらの対応は、たとえ耳鼻咽喉科クリニックであるとしても、医療現場に通常求められる心肺蘇生措置のレベルとして充分なものであったと評価することはむずかしい。

酸素投与設備や救急救命措置のための器具を迅速に利用できるように整備し、緊急事態を想定した訓練を定期的に行い、必要なときに迅速に最善の対応ができるようにスキルを磨いておくことは決して怠ってはならず、医療機関を運営していく上では最優先とすべき課題である。

患者は11歳であり、蘇生ガイドラインが定める「小児」に該当することから、小児の一次救命処置(PBLS)の対象となる。医療従事者が小児を救助する場合にはPBLSの手順に従う

小児の心肺停止は呼吸原性である可能性が高いので、できるだけ速やかに気道確保と人工呼吸を開始することが重要である。したがって、院内において心肺停止の危険性がある患者の場合は直ちに人工呼吸が開始できる準備を整えておくことが望まれる。

●当該クリニックの医師や看護師は、胸骨圧迫と人工呼吸による心肺蘇生を実施すべき義務があったというべきである。しかし、本件においては人工呼吸が行われておらず、このような事態をもって被告がその設置管理する医療機関において求められる義務を果たしたと評価することは困難であるといわざるを得ない。したがって、被告には人工呼吸を行わなかった過失がある。

●日常的に小児に対する診療を行う医療機関である当該クリニックには、バッグバルブマスク換気を行い得る準備を整え、その使用に習熟しておくべき義務があった。

●被告には、その設置管理するクリニックにおいてバッグマスク換気を行い得る人的物的態勢を整え、患者に対しこれを実施すべき義務を怠った過失がある。

●胸骨圧迫を中止すべきでないにもかかわらず、これを中止した過失がある。

また、被告が主張した

▼救急医療の専門家が行うものではない段階における心肺蘇生は、胸骨圧迫のみによる蘇生が推奨された時期もある。

▼心臓マッサージとマウストゥマウスの人工呼吸を組み合わせて行うには,舌根沈下による換気不良、胃内容物吐瀉による誤嚥を防ぎながら行う必要があり、講習等で技術を会得していない場合には医師であっても困難とリスクを伴う。

という点については、いずれも認められませんでした。


 

“医療従事者”であればフルサイズかつ全年齢対象のBLSスキルが必要

人工呼吸の省略はあくまで、善意の市民救助者が人工呼吸の実施を抵抗に感じることで、胸骨圧迫までも実施しなくなってしまうことを防ぐための施策。人工呼吸が不要になったということではありません。

ブレイブハートNAGOYA 過去ブログ
0005 人工呼吸は不要!という安易な言葉が救命率を下げる
https://www.qq-bh758.com/post/_0005

しかしながら、医療従事者であっても「人工呼吸はしなくてもよい」と勘違いしているケースが散見されます。


医療機関内の心停止でも、いつでもどこでも手元に人工呼吸デバイスがあるわけではないので、心停止を認めたのであれば直ちに胸骨圧迫を開始しますが、できる限り早い段階で適切な人工呼吸デバイスを使用したフルサイズの心肺蘇生に移行することが要求されます。

上記裁判では「小児の心停止ではPBLSの手順に従う」ことも謳われていますが、小児が出入りする医療機関で勤務する医療従事者の何割がPBLSを習得しているでしょうか? この10年、市民向けBLS教育は、心臓突然死の減少を目的として「人が倒れたらとにかく胸を押せ!AEDをすぐ使え!」という方向に向いていますが、医療機関でのBLS教育も同じ方向に向いてしまっているケースが少なくないのではないでしょうか。

医療機関内における心停止のうち、電気ショックが有効な心原性心停止は少なく、ほとんどは電気ショック非適応(心静止やPEA)のケース。それなのに多くの医療機関のBLS講習は、いずれのケースも電気ショック適応で、成人の心臓突然死対策(単なるAED講習)になっているという事態。

医療機関内の心停止の実態と教育の方向性が合致していないことが、医療従事者の不適切な認識と対応スキル未習得という事態を引き起こしているのかもしれません。

上記裁判でも、「要求される体制が整っていたか」「要求・期待に沿えるよう必要な準備をしていたか」という点の責任が問われているのであり、精一杯の備えと対応をした人に、それを上回る要求をしたというものではないはず。

自分たち(業界内)から見た「これで十分だろう」と、社会から見た「これくらいできるだろう」は本当に一致しているでしょうか。

そのギャップが大きいほど、事が起きたときに大きなトラブルへと発展し、ときに訴訟へと発展します。

もちろん、「”救えたはずの命”を生まないため」に各種の救命技能は必要ですが、無用のトラブルを防止するという点でも、日々の備えが必要でしょう。



 

成人・小児・乳児のBLSを習得できるBLSプロバイダーコース

医療従事者の心停止対応に関する備えのひとつが、適切な品質と内容によるBLSトレーニング。市民向けの無料講習や、短時間のAED使用講習ではなく、医療従事者として本来求められるレベルでのBLSを習得しませんか。



プレホスピタル域での救急対応トレーニングの印象が強いブレイブハートNAGOYAですが、病院内想定のAHA-BLSコースも展開しています。

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ただ映像を観て実技を練習して終わり…ではなく、「現場で動ける」スキルを習得したい皆様を応援する、価値ある講習をお届けします。

※COVID-19対策に係るAHAの基準以上の対策を施し、講習を開催しています


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